第7章 名劇の幕開け

杉浦杏奈は彼を見た。

表情はない。

前世の自分なら、このひと言だけで長いあいだ胸を熱くしていただろう。啓介は覚えていてくれたのだ、と。ずっと罪悪感を抱えていたのだ、と。

けれど今は、ただ滑稽だった。

そこまで後ろめたさがあるのなら、なぜ前世では、彼女がいたぶられて死ぬまで見殺しにしたのか。

何もかも知っていながら、何もしなかった。

なら、謝罪に何の意味がある。

「啓介」

杉浦杏奈は目を伏せ、傷ついたように声を落とした。

「もう昔のことだもの。気にしないで」

それは「許した」ではない。

ただ「もう心に留めなくていい」と言っただけ。

けれど杉浦啓介は、自分が赦されたのだと思...

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